【好きだから別れて】
高い遠い空が灰色のもやをかけ雨の涙を地に解き放ち


アスファルトから放たれるせつない匂いが風に乗り部屋にひんやり染み渡る。


壁に立て掛けたコルクボードに刺したオードリーの白黒写真があたしを見て何か言いたげで。


つい目を反らした後、ピンを引き抜いて表裏をかえしてしまう。


こんな日は不思議と波風がたち、不愉快な出来事が起きやすい。


良くない勘が働くあたしは変な胸騒ぎを気にしつつ、日中家事と育児に明け暮れ、夕方過ぎには疲れきっていた。


動ききらない重い腰をあげ、仕事を終え帰宅した真也との食事を済ませ家事を一段落する。


と、真也は相変わらず光を相手にもせずテレビを見ながら横になっていた。


人の気も知らず偉そうな態度で構えている真也。


そんな真也の姿をジッと遠巻きに見ていたらフツフツと怒りが込み上げてくる。


憎たらしい。


視界にいれたくもない。


うざい。


消えてくんない?


溜まっていた物が爆発して、あたしは無意識に気持ちをはきだしていた。


「もうどうしたらいいかわかんない!」


「何が!?」


真也はしゃべるのが面倒くさげに嫌そうな顔をした。


「借金のせいでうちギリギリだよ…」


「借金なんて周りの友達も作ってるって言っただろ!俺だけじゃねんだよ!」


「遊ぶ為の借金だろ!お前の友達はやっぱバカばっかなんだな!」


こいつの前で泣くもんか。


泣くもんか!


強気な姿勢で真也を睨みつけ、威嚇しまくる。


真也は喧嘩ごしのあたしを見て逆ギレをしだした。


「うるせぇな!!また友達の文句言うんじゃねぇよ!」


ここにいたくない。


コイツといたくない!


「ちょっと出てくる!」


今にも溢れてしまいそうな涙を見せたくなくて。


なにがなんでも負けたくなくて。


光を連れてあたしは外へ飛び出した。
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