【好きだから別れて】
「智也の気持ち?わかったわかった」


沸々と煮えたぎる怒りを押し殺して、拓にも余裕をかまし笑顔を振りまく。


拓はあたしの笑顔を見て騙されているとも知らず安心し、微笑み返す。


その微笑み。


うっとおしく感じてたまらない。


逃れる為にさりげなく視線を落とすと、灰皿は数本のタバコが溜まり交換しどきだった。


「タバコ溜まってるの気付かなかったわ。ごめん。交換するね」


「おお。気付かないうちに結構溜まってたな。頼む」


「はい。ありがとう」


拓に灰皿を手渡され立ち上がる形に足を曲げると


「歩ちゃ~ん」


タイミングよくママに呼ばれた。


やった。おさらばだ


あたしは席を離れられるのを心待ちにしていたから、やっと一仕事終えたと内心胸を撫で下ろしていた。


最後まで逃げず、智也の前で涙を見せなかった達成感もある。


「ごめん。呼ばれたから行くね。灰皿は次の子に頼んで持って越させるから。じゃ、ごゆっくり」


「あのさ」


「ん?」


「…またここに来いよ」


「へへっ」


智也と目が合い、智也の声は寂しそうに感じたが求める答えに返事せず、ただ笑ってごました。


いつも通り深く挨拶し、あたしは振り返りもせずカウンターへと向かいママの元へ駆け寄った。


ママに近寄ると、ママは眉間にシワを寄せ、心配そうな表情を浮かべている。


「お前大丈夫だったか!?ごめんな。嫌だったよな。でも智也から頼まれてよ~」


身ぶり手振りで必死に説明しようとしていたが、そんなカッコ悪いママの会話を遮り


「なんともないです。暴れたわけじゃないですし。すっげえ営業妨害されただけです」


あたしは弁解しようとするママを睨み付け、低い声で嫌みを言い放っていた。


さっきまで尊敬していたママだが、もう二度と尊敬などしない。


何故なら“歩ちゃんはうちの娘みたいなもんだ”“ここのナンバーワンだ”と言い可愛がってくれていたのに、ママに裏切られ、金の為に売られたような気持ちだったのだから。


「今日はもう帰っていいよ」


「えっ?」


普段はなかなか帰らせて貰えず、延長させられていたのにママから突然帰宅の許可が出て、呆気にとられた。
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