【好きだから別れて】
「歩ちゃんお疲れ!」


「はい!お疲れ様でした。お先失礼します」


仕事が終わり、その日稼いだ給料をママから受け取り財布へ雑にしまう。


客を視界にも入れず、気持ちは外の世界へ一直線で周りなど全く見えない。


あたしは店の歩から慶太に恋する歩へスイッチを切り替え、アパートまで息を切らし無我夢中で走った。


早く早く!


部屋に着くなり洋服をクローゼットから手当たり次第に取り出し、タバコの匂いが染み付いた服を脱ぎ捨て下着姿で洗面台の鏡の前へ。


目についた服を交互に肌の上へ当て、気に入ったデザインを床に並べ品定めした。


「派手過ぎず地味過ぎず可愛らしくはどれよ!?」


いかにも気合いが入っている勝負服ではわざとらしい。


かといって手抜きだとは思われたくない。


「カジュアルに!これなら当たり障りなくて正解っしょ!でもバッタみたいかな?」


興奮気味に声を出し、ブーツに合わせやすいデニムのミニスカートと黄緑色のギャル風パーカーを選び身にまとうと、床に散らばる服を足で蹴飛ばし部屋へ戻った。


テーブルの前に座り左手で慶太に送るメールを作成し、右手で器用に化粧直しをする。


「今終わったから迎えに来て」

メールを送信していつもより多めに香水を付け、完璧に身なりを整えた。


来るまで時間かかるから一本位いいっしょ


せっかくタバコの匂いの付いた服を着替えたのに誘惑に負け、タバコケースからタバコを抜き至福の一服を味わう。


テレビも付けず、静まり返った部屋でゆっくり煙を吐き


「そういやぁどんな男連れてくんだ?」


何の気なしに口ずさむ。


慶太が連れてくる男に興味などかったし、聞きもしなかった。


まあ聞く隙も与えてはくれなかったけど…


利用するにしてもブサ男で終わってる奴じゃきついな。やるとかなったらどうすんだよ…


紹介しろと言ったのを少し後悔しつつ、これでもかと煙を思いきり吸い肺に押し込め、タバコを消した。


財布の中に万札が入っているか確認して、バッグを開け手探りで慶太の写真を取り出しテーブルに置く。
< 46 / 355 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop