【好きだから別れて】
扉を開け部屋に入るなり、置きっぱなしにしていた携帯が鳴っている。


男友達でも特に信頼している直(なお)からの着信。


躊躇する理由はなく、あたしはすぐ通話ボタンを押した。


「ういっす。なんだ」


「お前今日休みだろ!飲もうぜ!!」



「ん?あっ?今日火曜日か。オケオケいいよっ」


そういえば今日は火曜で週一ある唯一の休み。


調子いいあたしは自分の体調管理など無視して直に即答で返事する。


「んじゃ八時過ぎにお前ん家の近くに着いたら電話するから。じゃあな!」


「あいよ」


直にはいつもこの調子で適当な返事をする。


電話を切った後、我に戻り冷静に考えてみるといつも飲んでばかりで酒を切らす日がない。


せっかくの休みを休肝日にすればいいのに、休みだからこそ気兼ねなく飲める楽しさに誘惑されていた。



夜になり、約束通り直にアパートの下まで迎えに来てもらうとカラオケとゲームセンターが一緒になったアミューズメントパークへ向かった。


そこは酒も飲め、食い物も豊富に準備してある昼夜問わず若い子が出入りしている場所だ。


明るい店内に二人は吸い込まれ歩き出し、すぐにカラオケを楽しんだ。


店員が嫌がろうとも何度も部屋に呼び出しては


「こっからここまで。あと生ビール2つ!ん?3つ?4つ?あるだけ。あはははっ」


メニュー表の端から端まで注文して羽振りよく大人買いを決め、適当に食い物とビールを頼む。


そのくせタチ悪くあたしはほとんど食い物には手を着けずビールを大量に飲み、酔いが回り気分はハイになっていた。


「あっ!プリクラ撮るか」


「えっ!?あっ、ちょいまてよ!」


びっくりしている直の手を引き、手に持つビールと共に無理矢理プリクラの機械へ直を連れ込んだ。


「いやっふうぅ~!おらあ~ガンガン撮んぞ!」


勢い任せに機械へ足を上げスカートも気にせず女を捨て、醜い凄いポーズをとる。


ビールを飲み、満足げな顔で直に密着し、周りなど全然気にしない。


「歩といると最高に楽しい!!」


「なんせ無敵っすからぁ~ははっ。つかおめぇなめんなよ!」


大声を張り上げとても迷惑な二人だったが、周りはお構い無しでプリクラを撮りまくった。
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