【好きだから別れて】
まだ時間は残っているのにカラオケを中途半端に終わし、その後は金などあるだけ使えとたくさんゲームをしてはしゃいだ。


財布の中にあったはずの万札。


形跡なんてなくなって二人の財布は一文なしに。


あたしは空になった財布を手に、足元をふらつかせ酔っ払い状態で直の肩に手を掛け、頭を下げた。


「どれぇ~直。うちに来て飲み直す?」


男女を意識させない直は安全だと認識し、客と鉢合わせしないようにアパートへ誘い出す。


「おう。でも部屋に2人きりってつまんなくね?」


「んじゃ、唯達んとこに乱入かますか!」


直の意見を聞いてピンときたあたしは、昼間慎に謝ったばかりなのに懲りもせず、唯へ電話した。


二人の部屋には年中出入りしているから行きやすかったし、唯が大好きだった。


だから行きたいんだ。


「もしも~し。歩さんどうしました?」


「今からおめえらの部屋に突入じゃボケ!ぎゃははっ」


唯にどんなに申し訳なく思っていても、酔いは恐ろしいもので人を勢いづかせる。


声を荒げて、迷惑も考えず二人の部屋へ乱入しようともくろんだ。


「はいよ~今日はいつものメンバー勢揃いで飲んでまぁす。早くこい、こい」


「マジか!?おめぇら~逃げんなよ。ひゃひゃひゃ」


「歩さ…」


唯は何か言いかけたが途中で電話を切り、直と腕を組んでスキップし端迷惑な二人は外へ飛び出した。


「出発進行!ゴー!」


「いっくぞ~!」


直の車で唯の部屋に向かい、酔っ払っていたせいか気付けばあっという間にアパートに到着していた。


「うおらぁ~おでましだ。開けろぉ」


唯の部屋に着くなり直と二人で勢いよく扉を蹴り、大声は廊下に響き渡る。


中からもれる笑い声と同時に


「うっさいなぁ」


唯は扉を開け笑いをこらえていた。


「おっじゃましまあ~す」


靴を雑に脱ぎ、中に入るといつものメンバーが顔を揃える。


唯カップルと男友達数人。


その中にあたしの天敵春斗。


「歩~今日はかなりテンションたっけぇ~」


「うっせハゲ!」


挨拶変わりに春斗へ暴言を吐き、テーブルに置かれた缶酎ハイを勝手に二つ取る。


一つを直に手渡し、プルタブを開けながら


「ど~れ二回戦。乾杯」


「乾杯!」


声を揃え、みんな一気に酒を流し込み歓声があがった。
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