【好きだから別れて】
あたしはそのまま唯の部屋で眠っていたが、目がうつらうつら覚め始めると部屋の中は明るく時間は結構たっているようだった。


「もう一本飲むぞ」


男の声がうっすら聞こえる。


声の方向に首を動かしボヤけ頭で見ると、化粧姿のまま酒を手に持つ直の姿が目に入った。


こいつ酒つえぇ。ついてけねえや


周りには酔い潰れた友達が数人横になり眠っている。


敗者達はピクりとも動かない。


そんな敗者を尻目に直はまだ飲み足りないのか、潰れずにいる春斗と唯の三人で楽しそうに盛り上がっていた。


「直悪い。あたしギブ…部屋戻るわ」


力の入りきらない右手を挙げ、かすれ声で盛り上がっている三人の会話に割りこんだ。


すると、目の回りを真っ黒に塗り潰した直が缶酎ハイ片手にこっちを見た。


「俺はもうちょい飲むからさ。お前は部屋帰ってさっさと寝ろ」


「直冷たい。運んでぇ~」


「お前足あんだろ。つかすぐ下なんだから大丈夫。いけいけ」


「けっ。バカァ。いいもん」


直の化粧を見て笑う気力すら残っていなく、フラフラしても気合いで靴を履き、唯の部屋を出てエレベーターへ向かった。


うまく立てない体を無理矢理起こし、壁に寄りかかり下の階へ。


元々ビジネスホテルだった場所を改造して作られたこのアパートはやたらと廊下が長い。


部屋までの道のりがいつも以上に長く感じ、あたしは途中で何度か地べたに座り込んだ。


「おい、天井回ってるよ~最悪」


独り言をぶつぶつ呟き、床に張り付きなんとか部屋の前にたどり着くと、カギがかかっている。


「カギねえし!」


バッグの中を手探りでかき回し、手に当たった感触でカギを探し出す。


ドアノブにしがみ付き、やっとの思いで部屋の中へたどり着いた。


もう



体力は残っていない。


ダメ。限界…


見事に酒に飲まれてしまったあたしは敷きっぱなしの布団に倒れ込み、靴を履いたまま気絶していた。
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