【好きだから別れて】

・舞い降りた奇跡

「あ~っ。あったま痛い。とれるぅう…」


目が覚めてもどうしても歩くのが嫌だ。


あたしは床に這いつくばり台所へ向かい、水をこれでもかとがぶ飲みする。


電気を付けグラスを手に部屋へ戻り、テレビに着いた小さな時計で時間を確認すると、もう夕方5時過ぎだった。


仕事以外でこんなに酔い潰れるまで飲んだのは久々で、自分ですら酒臭さがわかる。


無理。絶対ダメだ。今日だけは休みもらおう


意地でも休まなかったのに、この状態で仕事に行ったら倒れるのは目に見えていた。


迷惑をかける前にママに電話を入れる為携帯を探し、耳に携帯を押し当てた。


繋がった電話。


聞き慣れたママのかすれ声が耳を刺激する。


「はい。どうした?」


「すいません。歩ですけど、昨日酒飲み過ぎてダウンです。今日だけでいいんで休み下さい」


「…歩ぅう~お前はまったく」


「すいません」


「…今日だけだぞ」


「はい。明日は必ず行きます。すいません」


「お大事にな」


「はい」


今までこんなお願いをしなかったせいか、すんなり休みをとる事が出来た。


あたしは休みを貰い一安心して布団に寝転がり携帯を適当に床へ投げつけた。


するとその時。
聞き慣れない着信音があたしを求めるように鳴り出し、とっさに携帯を手に取った。


「あれぇ、壊した?」


拾って見たが知らない番号が表示されていて、しつこく鳴り続けなかなか切らない。


客が電話番号を変え、新しい番号を教える為に掛けてくる可能性だってある。


半信半疑だったけれど欲にかられ金に繋がると思い、声色を変えて電話に出た。


「はい」


声を作りすましていると、一瞬の間の後に


「あっ、俺、悠希だけどわかる?」


「…ん、悠希?悠希!?あぁっ?あっ」


頭がまわらなくて忘れていたが、この甘ったるい高音は慶太が紹介した悠希だとすぐわかった。


「な、なんであたしの番号わかんの!?」


「慶太さんが教えてくれてさ」


四人でカラオケに行った日。


悠希からアドレスを聞き出せず不発に終わったはず。


それなのにまさか掛かってくるとは夢にも思わず驚き過ぎて声が上擦る。


慶太め…あの野郎


頭に慶太の不適な笑みを浮かべる顔がよぎり、ちょっと腹がたちつつ会話を進めた。
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