【好きだから別れて】
――この店はなんなんだよ。安い時給でこれじゃ割りあわねっての。はぁ、マジかなり疲れてきたんだけど。


帰ったと思ってもまた客が来て、一から接客のやり直し。


止めどなく出入りする人を見ているだけで、本当嫌気が差し、どっと疲れてくる。


それでなくても人間関係のストレスも溜まりに溜まり、ここ数ヶ月食事をまともにとらず、酒とタバコで腹を満たす生活。


そのせいで急激に痩せ、あたしの体は疲れが出やすくなっていた。


食べ物を食べたくない。


と言うより、受け付けない。


元々細身だった体から肉はそぎ落ち、頬もこけ、太ももに隙間が出来始めた醜い体。


頻繁に起きる立ち眩みも厄介で、気力と意地で立っていると言っても過言ではなかった。


でも、あたしは誰にも弱音を吐きたくないし、弱味も見せたくない。


いや。


誰にも吐けないし、見せられない性格…


こんな時、ママの目を盗み一人こっそりさぼるには、トイレへ逃げ込むに限る。


「あっ、灰皿交換しなきゃ。気がきかなくてごめんね」


あたしはいかにもタバコが溜まっているかのように芝居し、灰皿を手に席から立ち上がった。


「ちょっと失礼します」


灰皿をカウンターの中へ投げ入れるなり寛ぎのトイレへと即座に向かい、ドアノブに手をかけた。すると


「歩ちゃ~ん。二番お願いしまぁ~す」


威勢のいいママは人の疲れなどお構いなしで、次の席を指示し、ビール片手にさっさと消えていった。


――ちっ。気付かれたか。本当、金の亡者だな。鬼が


店内でママの言うことには逆らえず、ママは絶対的存在だ。


はっきり言ってこんな立場が、嫌でしょうがない。


しかし雇われてる以上ママに従うしかなく、渋々ライターとタバコを持ち、急いで指示された席へと向かった。
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