【好きだから別れて】
「ごめん…慶太とまたつきあいたくて悠希を利用してた」


「お前ふざけんな!!」


手でハンドルを打ち付けた鈍い音がドンと響き、優しい悠希からは想像出来ない怒りに満ちた声で怒鳴られた。


怒られて当然なのに、あたしの気持ちは止まらない。


「んじゃどうしたらいいの?慶太が好きで好きでどうしたら忘れられるの!?忘れ方教えてよ!」


自分が悪いのにわけもわからず口走る。


感情が先走ったとはいえ、人として最低な発言。


彼氏に絶対言ってはいけない発言。


「お前が慶太さん好きだって付き合った日から知ってるよ!!」


「はっ!?」


何言ってんの?ずっと知ってたっていうの!?


何がなんだかさっぱりわからない。


が、悠希の口から間違いなく出た言葉…


「あぁ~ムカつく女!!」


走行している車は速度を落とし、無造作に左へ寄せて止めた。


張りつめた空気に押し潰されそうだったが、中途半端にして車内から逃げられない。


「別れたいなら別れて!」


もう後には引けない。


あたしに悠希を引き止める権利すらない。


口から出た「別れて」

悠希はどう返事するのだろうか。


「俺の気持ちはどうすりゃいいんだ…」


「こんな最悪な女に騙されて恨めばいいじゃん!」


二人には別れの道しかないと判断し喧嘩口調で声を張り上げると、悠希はとんでもない返答をした。


「慶太さんが好きだって知っててつきあったのは俺だ!だって俺、お前すげえ好きなんだもん。なんだかよくわかんねえけどよ!」


一瞬、悠希の気が狂ったのかと思った。


誰こいつって思った。


でも悠希の心の叫びが声となり、あたしの胸にスッと流れ、変な気持ちになったんだ。


ストンと何かが流れ出た。


騙してたのになんて奴なの…


悠希はあたしの気持ちを知ってても知らないふりをし、愛を注ごうとしてくれた。


騙したつもりが、そんなものもろともせず全てを受け入れようとしてくれたんだ。


オーディオの光でほのかに写し出された悠希の顔。


目には涙を浮かべ、静けさの中、鼻をすする音。


なんで泣いてるの!?あたしの為に泣く男なんていなかったよ!?


あまりに唐突で黙って悠希を見つめるしかない。


気付けば静かな車内でひたすら泣いている悠希の事を考えていた。
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