【好きだから別れて】
なにこいつ！？怒り通り越してマジで頭おかしくなった！？


そう思ったが悠希の目は真剣そのもので、気迫に押しつぶされてしまいそうな感覚に陥った。


掴まれた手首にはとてつもない力が加わり、かなりの痛みが走る。


この手を振り払い、外に飛び出せないのは伝わる手の温もりで痛いほどわかる。


純粋に真っ直ぐぶつかり、腹をくくってこんなあたしを悠希は受け入れてくれた。


偽りなんかない。


美しい瞳で…


歩はもう慶太の女じゃない。


悠希の女なんだ。


バッグから携帯を取り出し悠希の目の前に差し出すと、あたしは登録していた慶太のデータを削除した。


「これでいいんだよね？」


「お前」


自分が今できる罪滅ぼしは番号を消す。


そして慶太を忘れ、悠希の女として生きていく意志を伝えるのみ。


「これでいいの！もう電話はしない。繋ぐ物なんて何もないから」


「うん。わかった。もう慶太さんの話はしないし、するなよ」


「うん」


あたしは深く頷き、差し出された悠希の手を握りしめた。


二人は手を固く繋ぎ合わせる。


「ほれ、暗くなるな！歩の部屋に行くぞ！」


悠希はこれから始まる二人の恋路を導き、今までの過ちを鼻にもかけず明るく振る舞う。


車を発進させ、暗い夜道の中しっかりと繋がれた手を握りしめ、あたしの部屋まで走り出した。


あたしも部屋に着くまで手を離せなくて、この温かな優しい手の温もりを一生忘れまいと胸に焼き付け目を閉じた。
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