雨に似ている

音楽は「音を楽しむ」と書く

ライブ当日。

詩月は理久に呼び止められた。

理久は少し緊張気味の詩月に「お前の見張り役」と笑って見せた。

詩月は自分から「息抜きをしろ」とライブを勧めた手前、成り行きが気になるのだろうと思う。

理久は「お前、歩くの遅いな」と言いながらも、詩月の歩調に合わせ駅前までゆっくり歩いた。

詩月たちは下村楽器店のオーナーや店員が会場のセッティングを行う間、最終の音合わせを行なった。


「周桜くん、緊張するわね」

郁子が頼りない声を出す。

「大丈夫か？」

詩月は郁子の手をとり「この指でしか奏でられない音を精一杯弾けばいいんだ」と、柔らかい表情で言った。