雨に似ている
決められた時間毎にバイタルを測りにくる看護師。
白衣を着ているというだけで、詩月は妙に安心する。


「まだ、帰れないの?」

数日後の昼前、詩月は看護師に訊ねる。


「退院の話は聞いていないわ」

看護師は体温計の数値を書き込み、きっぱりとこたえる。

詩月に薬を手渡し「1種類、薬が変更になっているから」と素っ気なく言う。


「これね」変更された薬を摘まんで、ひらひらさせる。


薬が変わるたび薬が増えるたび、主治医の顔も言葉も厳しくなる。


「そういうことか……」

詩月は、効いているのかどうかもわからない薬だと思う。

ただ状態を保つだけ、ただ働きを助けるための気休めの薬。
なのに、飲み忘れると発作を引き起こす……類いの薬もある。

詩月は5月中旬から時々、調子を崩している。
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