雨に似ている
母親が「薬など飲まなければ」と嘆いた日のことを詩月は鮮明に記憶している。

詩月は母親の前で愚痴や嘆き、後悔も文句も、一切言ったことがない。

母親は夢を諦め、後悔と自責の念に押し潰されそうになりながら、懸命に自分を守り支え愛し、育ててくれているのだからと、信じて疑わない。

母親を今以上に悲しませ苦しめてはならない。

詩月はあの日以来、ずっと思っている。

母親が弾けなくなったヴァイオリンの音。

思うようにヴァイオリンを操ることができなくなった母親の指。

詩月は母親が、学生時代には数々のコンクールにも入賞し、全盛期には名の知れた指導者が絶賛するほど、美しく見事な音色を奏でる有能な演奏者だったと、父親にも音楽科の教授からも聞いている。


幼い頃。
ピアノと共に習い始めたヴァイオリン。

詩月の演奏は数年前から、師匠にも少しずつ認めてもらえる演奏ができるようになった。

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