雨に似ている
「そんなの気にしないわ。やましいことは何もしていないもの」


「君は強いな」

詩月は郁子の顔をじっと見つめ、ゆっくりと感嘆の声を漏らした。


「ねぇ、何故ピアノを?」


「さぁな。ピアノを弾く父の横顔が綺麗だったからかな」


「横顔?」


「ピアノを弾いている時、観客席側に見えているのは横顔だ。
ショパンは、その才能だけでなく横顔が素晴らしく綺麗だったらしい」

サロン演奏で絶大な人気を博したショパンのエピソートは数々ある。
横顔がというエピソートは、有名な話だ。

郁子は詩月が、そんなことを真顔で言うとは思わなかった。

驚くと同時に、クスッと笑った。


「ショパンコンクールの覇者は皆、横顔が美しいんだ」

郁子はショパンコンクールの覇者を数名、思い浮かべ言われて見ればと思う。


< 62 / 143 >

この作品をシェア

pagetop