take it easy
 デスクに戻って書類を取り出すと、間違った箇所を捜し始める。

 時間があればゆっくり捜し出して直すけど、今は〝時間がない〟から……

 どうしよう。

 古瀬さんに迷惑をかけちゃった。

 どうしよう。

 どこ間違えたのか、全然解んない。

 どうし……


「……まずは2ページ目の計上だ」


 振り返ると、背後に無表情の古瀬さんが立っていた。


「何をしている。早くしろ」

「あ、あの。古瀬さん」

「いいから。早く……やらないなら、ソレ取り上げるぞ」


 ……一応、私にやらせてくれるらしい。


「次は3ページ目」


 古瀬さん……自分の仕事は良いんだろうか。


「気を散らすな。集中しろ」

「……は」

「返事はいらん」


 ぅぇえ~ん。


 さすがに背後に立たれると緊張するんですけれど~。

 一味違った意味で恐いんですけど~。

 でも嬉しいんですけど~……


「解りやすいんだよ」

 頭に手を置かれて、ギクリとする。

「いいから数字を見ろ」


 何かがお見通しらしいです。



 そんな感じで営業課の書類を上げた。


 もちろん一部始終を見ていた先輩たちは、クスクス笑っていたけれど。



 変な所に時間をかけてしまった……と言うか、迷惑をかけてしまった私は、

「手伝います」

「……お前に手伝ってもらう程、俺は落ちぶれていない」

「手伝います」

「余計時間がかかる」

「手伝います」

「…お前、しつこいって言われた事はないか?」

「頑固ならあります」

 古瀬さんは、溜め息一つで分厚いファイルを持ち上げた。

「清書」

「はいっ!」

 ウキウキしながら受け取って。

 受け取ったはいいけれど……


 辞書を片手に清書をしたのは初めてだった。
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