私の優しい人
 日中は用件が無い限り、できるだけ連絡はしないようにしている。

 思い立って、昼食を取った後メールを送った。

(今夜会えないかな?)
 意外にも返事は早かった。
 数十秒後には、手にしたスマホが震え出す。

(ごめんね。残業。)
 会えない事は知っていた。

 わかっていたし、内容にがっかりする事はない。
 ただ返信の早さだけが、なぜか嬉しい。

(私も仕事頑張るよ!)
 スマホをバックにしまい、更衣室へ戻る。

 軽くリップクリームだけを塗り直し、そろそろ昼休みも終わりと腕時計を確認してフロアへ戻る。

 彼からプレゼントされた腕時計は正確に時を刻んでいる。

 電池交換不要の腕時計のバングルはステンレス。文字盤は白で数字に当たる部分には石が埋められている
 シックでいて、とても可愛い。

 敢えて値段を調べてはいないけれど、結構するはずだ。

 今までは携帯を時計代わりにしていたけど、腕時計をもらってからは、バックを漁る必要がなくなって、動きがスマートになった気がする。

 腕に馴染む時計。

 彼も時計も私の一部になっていた。

 ずっと啓太さんと一緒にいたい。

 もっと近くにいたい。

 私の好きがどれ程彼に伝わっているのだろう。

 時々、それを確認したくなる時がある。

 言葉で、態度で、肌で。

 大きな喧嘩もなく、私はその時々で欲しい言葉をねだる。

 同じ言葉を、同じ重さをもって、彼に返す。

 そんな日々はあっという間に過ぎる。

 時が経つのは早くて、あっという間に交際を始めてから一年が経っていた。
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