私の優しい人
「うちは僕が母親代わりをしていたから、家事は一通りこなせるんだ」

 確かそんな感じの軽い言い方だった。

 父親と弟が2人いるらしい。
 あまりにも普通に自分のプライベートを話すから驚いた。

 この人、楽しいコンパの席で何言いだしてんだって。
 堂々と言っちゃう姿から眼が離せなかった。

 そのせいか私の同僚も、聞きにくい事でも遠慮なく口にしていた。

「いつから家事してるんですか?」

「そうだな……10才くらいだよ」

「すごいですね。家事が得意な男性は大歓迎ですよ」
 彼は嫌な風もなくごく普通に答えている。

 性格が顔に出ているような、穏やかな印象の人。
 背はたぶん男性の平均身長より少し上くらい。

 そして興味を持った。

 この人は私と全然違う。
 彼はもう色んな事を乗り越えているのだろうか、と。

 そう思い始めると彼が気になって仕方ない。

 そのせい、だとは強く言わないけれど、私は持っていたグラスをお皿の角に着地させてしまい、中身を盛大にぶちまけ、ちょっとしたお祭り騒ぎを起こしてしまっていた。

 ばらけていた視線が一斉に私に集まる。

 なにこの悪目立ち。最悪。

 被害が私の範囲で収まったのだけが幸いだった。
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