私の優しい人
 今日はこのまま帰りたい。

 そう思っていたのに彼が連れて行ったのは、いつものホテル、ではなく駅だった。


「ペアリングを買おう。少しでも里奈ちゃんが自信を持てる印になるなら」
 力強い手は私を握って、ずっと緩まない。

 何か当てがあった訳じゃないみたい。

 駅の地下街に入りしばらく歩いた所で、最初に目に入ったアクセサリーの店に入る。
 大きくない店内、リングを探しながらショーケースを覗いて回る。

 閉店時間まで30分と迫っているのに、今のシーズンだからか人が多い気がする。

 二つならんだリング。

 お手頃なものから、それなりの物まで値段の幅が広い。でも、どのリングも気品に溢れて見える。

「どれがいい?」
 聞かれても、今の私には世界で一番眩しいそれに、気持ちが乗らない。

 ピンクゴールド、プラチナ、シルバー、石の入ったもの。

 全てが幸せの象徴。
 彼と私の温度差。

 これに込められる思いの違いを感じずにいられない。

 私が欲しいと思うのは、永遠の愛を約束した時だけなのに。

 マスクを着けて俯く私に、拒絶ともいえる輝きを放つリング。腫れた目には、どうにもきつかった。
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