私の優しい人
「朝は失礼な事言ってすいませんでした」
 一人気落ちする私に掛けられた声は、柄にもなく謝罪の言葉を口にする後輩工藤だった。

 チェックリストから顔を上げると、見たことも無い神妙な顔をしている。

「わざわざ謝るような事じゃないよ。こっちこそ、ごめんなさい。」
 私も謝った。

 朝のちょっとしたやり取りで、この一日の空気は良くなかった。

「姉がいるから、女性の繊細な部分は分かっていたつもりなんです」
 後輩工藤は私の態度に少し顔を崩した。

「お姉さんいるんだ。幾つか聞いていい?」

「姉は30です。私は実家住まいだから、女には色んなリミットがあるって、毎日散々聞かされて愚痴られてます」
 堅さの無くなった彼は、本格的にお姉さんの話を続けた。

 家では気の弱い弟役をやっているらしい。

 女性と気兼ねなく喋れるのは、そのお姉さんに小さな頃から鍛えられているからのようだ。

 今まで気付かなかったけれど、彼の魅力は背の高さと顔面だけではないようだ。

 オープンな家庭環境らしく、色々知っている。
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