私の優しい人
 私の中のとりとめの無い思いが、いつまでも続く。

 口を開けなくなった私を、後輩が心配そうに見下ろしている。

 このモヤモヤと昨日の出来事をこの後輩工藤に愚痴っても、彼なら気楽に受け止めてくれる気がする。


「このあと時間ありませんか?」
 後輩工藤も話したりないようで、食事に誘われていた。

 できれば行ってもっとお喋りしたい。

 でも、万が一にもこのイケメンとの食事会の場面を誰かに見られて、啓太さんに誤解をされたり、言い訳しなきゃいけない場面は作りたくない。

「足が痛いからまた今度」
 やんわりと断る。

「じゃあ、また時間が出来た時に、絶対にですよ」
 演技とはいえ少し残念そうにする後輩工藤の顔は、やっぱりイケメンだった。

 ちょっと笑って、ちょっとスッキリして、ちょっと心の痛みが引いた。

 私と言う人間は複雑なようで単純だ。
 勝手に問題を掘り起こして、泣いて、悩んで、苦しんで、巻き込んで、最後にはケメンとお喋りしたら気が晴れた。

 同じような事で悩んでいる人が他にもいる事実を改めて知って、やっぱり自分だけじゃないと安心した。


 啓太さんにメールを送る決心をした。

 昨日の事を謝る内容。
 このメールの一文で伝わるかは不明だけど、
 結婚を急かしてしまった事から、泣いてしまった事から、とにかく全てを含む謝罪がしたかった。

 考えるまでもない。

 私はずっと彼から与えられてきた。

 惜しみなく注がれた側にいる人間なんだ。

 これからは与える側に回らなければ。

 今頃になってそんな事を感じた。
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