私の優しい人
 本当に離れてしまった時、青い空を見上げて、この空で彼と繋がっているなんて綺麗な事を思えるだろうか。

 絶対無理だ。


 会いたいと思った時には会える距離。
 何かあった時に駆けつけられる距離にいる安心感。

 それが、無くなってしまう。

 それを失った時……私は……

 あー、ダメだ。

 落ちたら無限ループ。地獄行き。
 ダメだ!

 俯いてしまっていた顔を上げる。


 これから趣味を見つけよう。資格を取る教室に通うのもいいかもしれない。きっと社外の友達も増える。
 新たな出会いが増える。

 頑張ろう。

 同じに、彼にも新たな地での出会いが訪れるのだろうか。

 何度打ち消し続けても不安は湧き上がる。


 もし遠距離のその先にも結婚がないのなら、その時に私達の恋の終わりがあるのだろうか。
 いつまでもそれに執着する自分が嫌だ。

 結婚したいから彼と一緒にいる訳じゃない。

 私にあるのは、好き、それだけの感情。

 近くても、遠くても、私があげられる全部で彼を守りたい。距離は関係ない。

 結局、どんな気持ちも、私が持ってる本音だ。


 気が付いたら家へと向かう電車に乗っていて、更に気が付いたら家の鍵を開けていた。
 カチャリとロックは外れる音で、覚醒した。

 それまでに覚えているのは電車の座席の足元の熱さだけだった。

 随分と呆けていたみただけど、私は長年の積み重ねで自動的に安全に、家まで帰ってきてしまっていた。



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