私の優しい人
◇2◇
 私からの誘いで会社帰りに会う約束をして食事をしたのは、そのコンパから3日後の事だった。

 この地方都市での起点となる一番大きな駅。お互いそこを経由して職場に行くので、待ち合わせはその主要駅となった。

 仕事帰りの人波、脇目も振らずに前だけを見て歩く人ばかりの構内。

 これだけ人が多いとすれ違う可能性もあるし、私には彼を見つける自信もない。
 その流れから外れた通路の柱で私はキョロキョロしていた。

 私がまだ捉える事ができる前に、彼が先に声を掛けて走り寄ってくれた。

 それ程忙しい時期じゃないらしく、残業で待たされる事もなくすんなり会う事ができた。

 スーツ姿の啓太さんは、この前とは違って大人っぽく見える。
 男性の制服は男前度を上げるって言うけど、啓太さんもそれだった。

 スーツなんてオフィスでも通勤でも見慣れているのに、初めて見る彼のパリッとした姿は素敵だった。

 駅から徒歩5分。彼の先導で向かったのは、細見のビルの中にあるビールと肉がメインのバル。
 以前に何度か来た事があるお店らしい。

 板張りの床はダークブラウンで、所々にジャンクっぽさを感じる年代物が飾られている。

 その小物はセンスがよくて、思わず手に取ってみたくなるほど。

 それぞれのテーブルは近いほどに配置されていて、周りの席の賑やかさを直に感じる。

 賑やかな声に包まれて、徐々に気分は高揚する。

 対面して座ったものの、小さなテーブルに近い距離を感じつつ、運ばれた料理を摘む。

 もし女子会だったら一斉撮影会になりそうなほど、カラフルに盛られた料理。
 私の好みを聞いて啓太さんが注文してくれたものだ。

 女性のツボをよくわかっている。

 やっぱり、その程度には女性に慣れているんだろう。

 職場の女性と来たりするのかな……
 少しだけ妬いた。
 
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