【短】Blue-Sky-Blue
「俺は橘 洋希。君は?」

「細川 絢莉です」


へえ、と呟いて橘先輩は食堂の受付カウンターに行ってしまった。


追うべきか迷うも仕組みが分からずに動けない。


オロオロしてる間に橘先輩が帰ってきた。


「はい」


テーブルにコトリと白いマグカップが置かれる。

「ココア…?」

「ここのは絶品だから。マシュマロ入りだから飲んでみな」


「え!?こんなっ、申し訳ないです!」


初対面の先輩に奢らせるとか身の程知らずすぎだ。


「そんな顔で帰すのは俺が嫌なの」

心底嫌そうに言うから説得力がある。

「…でも」

「いいから」


有無を言わせない鋭い眼光が私を突き刺した。

怖い。


「頂きます…」

マグカップを両手で包み、口元へ持っていく。


ふわっとチョコレートの濃い味が口の中に広がった。

ココアというよりホットチョコレートと呼んだ方が合っているような。


「美味しい…」

じんわり温かい。

「な?」

先輩がにこっと笑う。


いい人。

「橘先輩。本当にありがとうございます」

「別に。つか何で泣いてたわけ」

「それは…」

できれば言いたくない。

でもここまでしてくれた先輩には誠実に答えないと悪い。

「彼氏に、フラれたんです。その…学力が、違いすぎるって」

「へえ。彼氏はどこの高校なの?」

「秀明です」

「ああ…なるほど」


頬杖をついて先輩が苦笑いした。


「私、何も知らなかったんです。剣人が…あ、その彼が、そんな考えを持ってたとか。いつの間にか、」


私を好きな気持ちより見栄や外聞が勝ってたなんて。

「…その彼を知らなかったならさ。君をフッたのも理由があるかもよ?」

「え?」


「だって今までそんな兆し無かったんだろ」

「はい…」

「このまま終わらせても良いけどさ。俺の意見としては、もっかい話すのが良いと思うけど」


先輩がそう言って立ち上がる。

「行こっか」


私のマグカップは空になっている。


「はい」


よく見てるんだなと感心しながら席を立った。


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