極上ドクターの甘い求愛
…でも、ムリだ。
まず顎に生えている髭からして生理的に受け付けられない。
医療現場に携わっているせいか、私はそういった不衛生的なものは受け入れがたい性質になっている。
それがたとえ、オシャレとして生やしている髭であっても、私にとってはマイナスポイント。
……岩崎先生は、髭のひの文字も感じさせないくらい清潔になさっているのに。
『…ほら、繭。自己紹介しなさい。』
「えっ?」
いつの間にか皆さん着席していて、立ったままの私にこの場にいる全員の視線が私に注がれていた。
……何で岩崎先生のことなんか考えてるの…っ!
脳内で、繭ちゃんと甘ったらしい声で私を呼ぶ岩崎先生の残像を強制消去すると、気を取り直して口を開いた。
「…さ、咲坂繭です。25歳です、都立の総合病院で働いてます。」
いきなり自己紹介なんて言われても何を言えばいいのか分からなかった私は、簡単なものしか口に出せなかった。
『そんなのは三上さん達も把握なさってるわよ。趣味とか、休日は何してるのかとか、好きな音楽とか、あるでしょう?』
「え、あ……、」
小声でお母さんに怒られて、固まっている私に対して、三上さんのお母様は、繭さんって初心ですのね、と気品よく笑った。
普段ではあまり聞かないその笑い方に、頬が引き攣っていくのを感じた。
……私、この人達…苦手かもしれない。