極上ドクターの甘い求愛
「ありますよ、ありますけど…。私にも非はあると思うんです。」
『え?』
不満がないわけじゃない。愚痴が一つもないわけじゃない。
でも、それを周りにただぶちまけることが得策には思えないんだ。だから、言わないだけ。
「薬剤師として今の病院に入って、最初に教えられたのは、岩崎先生のことでした。岩崎先生は皆のものだから、自分一人だけ独占しようなんて思わないようにって。あそこにいる女性職員は皆、その暗黙のルールを守ってます。でも、私だけは、守ってません。」
『それは仕方ないことでしょう?いつも岩崎の方から咲坂ちゃんに言い寄ってるんだし。』
「いいえ。確かに岩崎先生はよく私のところに来て、お昼を一緒に、とかデートしようとか、誘ってくれます。けど…、私がそれを強く断っていれば、女性職員の方たちから反感を買うことはなかったはずです。いつも岩崎先生の押しに負けて、岩崎先生の善意を受け取っているから、妬まれるんです。そこはちゃんと、分かってるんです。」
『咲坂ちゃん…。』
分かっているのに、それができない。
どうしても、岩崎先生の感情の方を優先してしまって。
これ以上強く言ったら岩崎先生を傷つけてしまうかもしれない、これ以上拒否の態度を見せてしまったら岩崎先生に失礼だって、そういったことばかりが私の心を支配していて、結局は岩崎先生の誘いを受けている自分がいる。
「だから、私は何を言われたっていいんです。全て、私の責任ですから。まだ、私への火種が私に向いてるだけ、マシです。あれが、もし岩崎先生に向いてしまったら、私…――」
それだけが恐怖で。
あの鋭い言葉のナイフたちが、もし岩崎先生に向いてしまったら、って。いつか、岩崎先生が悪者のように叩かれる日が来てしまったらって、それだけが不安で。