極上ドクターの甘い求愛
『――そんなことないよ。』
「えっ……?」
岩崎先生のことだから、こんな小さな冗談も、いつもの笑顔で笑い飛ばしてくれると思ってたのに。
滅多に発さない冗談を口にした私に向かって、先生は予想とは遥かに違う笑みをこぼした。
その笑顔は、星々に照らされているせいか、少し自虐的に見えて。
『俺はまだまだ繭ちゃんのこと知らない。現に、繭ちゃんとウチの入院患者の瀬戸さんとの関係だって知らないし。』
「っ……!」
『俺を待ってる間、彼と何を話してたの?』
岩崎先生が、日野くんのことを不審に思うのも、今思い返してみれば、当然のことだった。
薬剤師である私は、こう見えてあまり患者さんと深く関わり合うことはない。
服薬指導や、薬の相談といったものは当然、患者さんと薬剤師と、医師も交えてするのだけど、それでも、主治医と担当看護師と比べたら、薬剤師の患者さんとの関わる時間は少ないのだ。
だから、あんな風に就業時間を過ぎて患者さんと世間話をすることなんて稀だ。
それに、私と日野くんが話していたのは職員用の休憩スペースだった。私と日野くんが元々の顔見知りじゃなかったら、日野くんだって私をあそこで見つけたとしても声はかけなかっただろう。
隣から、岩崎先生の視線が痛いほど私に突き刺さる。