極上ドクターの甘い求愛
ミーハーな人達のそばを通りたくないという私の個人的憂鬱と薬剤部で私を待っている仕事を天秤にかければ、仕事を優先すべきという結果は目に見えている。
――仕方ない、通るか。
気配を消してれば大丈夫だと思ったのが間違いだった。キャアキャア騒いでいる彼女たちの横をスタスタと顔を俯かせて通り過ぎようとした時だった。
『あっ、繭ちゃ――咲坂さん!』
「っ!」
ちょうど彼女たちがいる真横で呼ばれた私の名前。
天にも縋る様な私を呼ぶ声に、反射的に止まってしまった私の憎い脚。
あーもう、知らんぷりしようと思ってたのに…っ!
「ど、どうかされました?」
咄嗟に愛想笑いを貼っ付けて顔を上げると、助けてと言わんばかりの困った顔をした岩崎先生と、先生を取り囲んでいる看護師さん達の私に向ける嫉妬の表情が映った。
ああ、また睨まれてる…。
『ちょうど薬剤部に用があったんだ。ご一緒してもいいかな。』
「……はい、構いませんけど。」
薬剤師である私が医者の岩崎先生の誘いを断ることなんてできずに承諾すると、ムッとしている看護師たちに岩崎先生はさっさと別れを告げた。
怒りを露わにしたような看護師さん達の冷徹な視線を背中に受けながら、私は岩崎先生の後ろを歩くのだった。