労苦
 橋村が、


「梶間さん、今日もあの現場に行くつもりですか?」


 と訊いてきたので、


「うん、そのつもりだよ」


 と返す。


 警察学校を出て、警視庁に配属された際、先輩刑事の門島(かどしま)が言っていた。


「梶間君、殺しだったら、何度も現場見ろ。その目で確かめるんだ」と。


 昔のデカなので、そういった定石的な捜査を好んだのだろう。


 分からないことはなかった。


 あの当時――今から二十年ぐらい前だが――は、IT機器などがなく、科学的捜査は困難だったのだ。


 いつも門島は事件現場に立ち返ることを言っていた。


 先入観に捉われることなく、あくまで虚心坦懐に、である。




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