労苦
 そう言って笑うと、奥にいた刑事たちも吸っていたタバコを消し、俺と橋村の方に来る。


 四十代ぐらいの壮年刑事が、


「いずれこの帳場が立つから、意見はそこで言ったらどう?」


 と言ってきた。


「ええ、そのつもりです。捜査には参加させていただきますので」


 どうしても警視庁を一歩出ると、よそ行きの言葉になってしまう。


 見知らぬ警官に対しても、敬語を使うのだ。


 まあ、別にそんなことはどうでもよかったのだが……。


「今日のところは、いったんお暇しますので」


 そう言ってフロアを出、歩き出す。


 ちょうどそれから二日経ち、所轄の捜査本部が動き出した頃、新聞にも報道が出た。


 <都内在住の会社社長、三原伸吾さん殺害事件で南新宿署に捜査本部が設置され、警察は捜査に乗り出した模様>と。
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