労苦
 俺の方が挨拶すると、橋村も目礼する。


「今日も捜査員はいませんね」


「ええ。出払ってまして」


「大村係長、当山謙太の身柄確保は困難ですか?」


「いえ。令状さえ取れれば、可能かと」


「今、警視庁組対部が動いてます。ですが、組対は当山たち神宗会の人間を摘発できません」


「それは……一体どういうことでしょう?」


「簡単です。地理的に網の目が細かい所轄に敵わないんですよ」


「所轄の方が事情がいいということでしょうか?」


「まあ、そうですね。我々警視庁刑事部の刑事もそう踏んでます」


 そう言って、しばらく佇む。


 帳場は三人の他に誰もいないのに、妙に緊張感があった。

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