労苦
 だが、じっと様子を見ようと思う。


 今動くのは得策じゃない。


 何事も時期を待って、である。


 そんな忍耐強さが俺にはあった。


 その日も警視庁十階の捜査一課フロアに入り、デスクに就いてパソコンを立ち上げる。


「おはようございます、梶間さん」


「ああ、おはよう、橋村君」


 お互い挨拶し、マシーンのキーを叩いて、課内庶務をこなした。


 そこにまたあの男が現れる。


 上下とも黒のスーツ姿で、青色のネクタイを締めた矢野原監察官だ。


 吉村が、


「監察官、朝から何かご用件でしょうか?」


 と言うと、矢野原が、
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