労苦
 と大村が言った。


「なぜ、警視庁の監察官が所轄の捜査本部に?」


「理由は言えません。職務上の機密ですから」


 大村の目がしばらく宙を彷徨う。


 それ以上は答えさせなかった。


 相手にも無理になると思って、だ。


 小一時間帳場にいた後、署を出て、歩き出す。


 事件の背後にはムーンの店内にあった金庫の書類と、所轄を訪問した警視庁の現役監察官が浮かんできた。


 何かがある。


 きっと。


 今はまだ分からないのだが……。


 きっと鑑識による精査は二日ほど掛かるだろう。



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