労苦
「君、以前言ったよな?出世の墓場って言葉があるって」


「ええ。……気になさってるんですか?」


「まあね。俺もずっと一課で捜査畑にいて、いろんな犯罪者を見てきてる。出世なんか、最初からしないものって思ってた。いくらキャリアであろうが、上に行くことを捨てたんだ。だから、君もそのつもりでいてくれ」


「分かりました」


 橋村がそう言い、頷いてみせる。


 俺の方はじっと前を見つめていた。


 思う。


 ここが踏ん張りどころだと。


 辺り一帯に熱がある。


 空は曇りなのだが、蒸されるように暑い。


 熱中症に気を付けるつもりでいた。


 常に喉も渇くので。
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