労苦
 八係長の水谷は老眼鏡を掛けたまま、デスクのパソコンに向かっている。


 思っていた。


 事件が危険水域に入っても、個々人はてんでバラバラだと。
 

 まあ、警察などそんなものだ。


 組織が動くにしても、掲げた捜査方針など画餅なのだし、全捜査員を一手に統括することは事実上不可能に近い。


 一課長の吉村も、刑事部長の田村や他の上役からいろいろと苦言をぶつけられているだろう。


 それが警視庁刑事部の実態なのだ。


 そういった動きは差して変わってなかった。


 大村が青酸カリ中毒で何者かに殺害されたことは、上の人間ももちろん知っている。


 帳場の責任者である大村を殺したのは、おそらく捜査妨害だろう。


 しかも犯行時間帯に青酸性化合物を大村のコーヒーカップに混入することが出来たのは、所轄の捜査員しかいない。
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