労苦
 と訊いてくる。


「ああ。何か疲れちゃってな。……遅い夏バテかも?」


「そんなこと言ってられませんよ。捜査案件があるんです。しっかりしてくださいよ」


「うん。気を取り直してやるよ」


 そう言って、気を引き締める。


 振り返ってみれば、今まで警察官をやってきて、楽な捜査などなかった。


 神経を研ぎ澄まし、追ってきたつもりだ。


 犯人逮捕と取調べも、若いうちは溢れんばかりの精力でこなしてきた。  


 晴海が交通課にいて知り合った頃は、俺だってまだバリバリだったのだ。


 結婚後、彼女は家庭に収まったが、同じ警察官という人種として共有する世界はあった。


 今になって、何かしら振り返ることが多い。


 昔のことを。


 その日も正午に庁内で昼食を取り、午後から現場へ向かった。
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