労苦
「まあ、その時はその時です。今考えることじゃありませんよ」


 橋村がそう言って、感情の矛を収める。


 ハンドルを握りながら、車を新宿方面へと走らせた。


 何事も体験だと思っていて。


 実際、刑事は場数を踏むことが大事だ。


 捜査対象と向き合う数が多いほど、捜査慣れし、勘も鋭くなる。


 目的地に到着したところで、車を降り、辺りを歩く。


 神宗会事務所は、今歩いているところから目と鼻の先だ。


 辺り一帯は物騒だった。


 繁華街で治安が悪いのだし……。


 ここ数カ月、新宿区の犯罪発生件数は多かった。


 人口が集中しているところだから、当然それ相応に犯罪も多発する。


 参っていた。



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