労苦
 外は晴れていた。


 気温も上がり、春の陽気である。


 ハンドルを握り、運転した。


 橋村は助手席でスマホを弄っている。


 いろいろ考えるのだろう。


 いかにも頭脳明晰な若者らしい。
 

 この男がキャリアの刑事であることは十分承知だ。


 俺だって東大卒で、一応Ⅰ種試験合格者である。


 だが、はっきり言って出世の見込みはない。


 警察社会でも、年齢が上がるにつれ、次々とキャリア官僚が消えていく。


 体のいい天下りや渡りなど、日本が官僚天国であることは目に見えている。


 よほどの悪事を働かない限り、一生涯、いい思いが出来るのである。


 その点、俺だって仮に警察を追われたとしても、関連先への再就職など引く手あまただ。
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