労苦
「ええ」


 前田が頷き、まっすぐに帳場へと歩いていく。


 フロアの扉の鍵を開け、中へと入った。


 コーヒーを三人分淹れ、広いデスクの上にカップを置く。


 前田がいきなり言い出したのは、大村係長殺害を生田巡査部長に教唆した矢野原監察官が都内で目撃された一件だった。


 正直なところ、驚いている。


 いたのか?


 しかも都内に。


 思わず力が入る。


 捕まえてやる。


 怒りの感情の断片が頭に浮かんできた。


 その日、前田は集中的に矢野原目撃の件を話し続ける。



< 604 / 666 >

この作品をシェア

pagetop