労苦
 そう言って、その場はいったん別れ別れになる。


 内田晶夫はおそらく遠くへと逃げたようで、追尾する術もない。


 軽く息をつき、橋村に、


「今日はダメみたいだな。撤収しよう」


 と言って、駐車場へ歩いていく。


 疲れていた。


 心身ともに。


 つい小一時間前まで、三原伸吾殺害の嫌疑が掛かった人間がいたのである。


 ここ新宿区内に。


 だが、取り逃がした。


 まずいことになりそうである。


 刑事にとって、被疑者を取り逃がすほどの失態はないのだ。 


 車に乗り込み、走らせる。



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