私のステキな下僕 〜カレシ〜(短編)


「すっごーい!きれい!!!」


館内に入ると、イワシの大群がお出迎え。


ただのイワシの習性なのに、こんなキレイなシーンは日常では見られない。



はっ!興奮してる場合じゃないっ!


矢沢さんは??


キョロキョロしていると、那智に手首を掴まれた。



「はぐれるから、手繋いでもいい??」


キューーーーン!!



死んじゃう死んじゃう!!
そんな照れながら言わないで!!



「う、うん」


そうそう!手繋いで矢沢さんに見せつけるのもいいね!


でかした那智!


初めて繋ぐ手にドキドキしながらも、矢沢さん探しに抜かりは無い。


ところが、スナメリの展示やイルカのショーの場所でも矢沢さんを探すことは出来なかった。



どこ?どこなの、矢沢さん!!



よく考えたら、矢沢さんが来てたって、こんな人混みで、こんな広い施設の中で見つけることなんて簡単じゃなかった。



「・・・なんか、お腹空いちゃった」


「・・・・」


「那智??」


無言の那智を見ると、疲れたような顔をしていた。


「・・つまんないなら、帰るよ?
水族館嫌いだった??」



え??


那智の口から意外な言葉が出て来て、
心臓が止まりそうになった。


「なに言ってんの?」


もしかして、わたしが矢沢さんのこと
ずっと気になってたから??


「全然見てないし、俺が話しかけても
無反応だったから・・」


怒っているんじゃなくて、傷ついている那智に、自分のしたことを後悔した。



「ゴメン。言い訳するの、凄いイヤなんだけど、その・・矢沢さんの事が気になってて」


「え?矢沢さん??」


目をまん丸にする那智。


「この前、教室で那智が矢沢さんと仲良さそうにしてるとこ見ちゃったんだ。そのあとに、矢沢さんの身長とか言うから気になって・・・その・・」



チラっと、那智を見ると何故か顔を真っ赤にして片手で顔を隠している。



「ごめん。もしかして、嫉妬してくれてたの?」






「・・違うし!なんでわたしが
嫉妬なんか・・って、ダメだね。
ごめん、そうだよ。嫉妬した」





ギュッ。

わたしを握る手に、力が篭った。


「矢沢さんが、那智を好きだったらどうしようって思ってた。今日、ここに来るのも絶対偶然じゃないって思って、わたし達のラブラブな雰囲気見せつけて、諦めてもらおうとしたんだ」


なのに、矢沢さん現れないんだもん。




「矢沢さんなら来ないよ」


「へ?」


来ないんかーい!!

ん?待て待て!
なんで那智が矢沢さんが来ないこと知ってんの??


「矢沢さん、小野寺と来る予定だったんだけど、矢沢さん風邪引いて来れなくなったって、小野寺から今朝連絡来たんだ」




「小野寺ってだれ?」


「矢沢さんの彼氏で、俺の友達」




はぁーーーー!???





「ちょ、待って!この前わたし矢沢さんに凄い見られてたよ??」


コレは本当にそうだ!
思い込みなんかじゃない!



「あぁ、それは小野寺がレイナのこと好きだったからじゃないかな??」



「は?」



「だから、矢沢さんが勝手にレイナに嫉妬してただけ」


おいおい、紛らわしいことしないでよ。


なんか力抜けちゃった。
すんごい疲れた・・・。

せっかくの半年記念のデートが
台無しだよ。


全部わたしのせいなんだけど。


水族館に誘ってくれた時の那智の顔を
思い出して、すごく申し訳なくなった。


矢沢さんのことなんか気にせずに、
もっと那智とのデートを
楽しめば良かった。


ごめんね、那智。









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