鬼姫伝説 Ⅰ
「行くぞ」
「え、あ、はい!」
千代は慌てて立ち上がる。
琉鬼に渡された布を自分でおでこにあてがう。
鬼羅は黙って歩き出す。
「琉鬼さま、ありがとうございました」
「いいえー。じゃあね、ちぃちゃん」
「はい!また!」
琉鬼と別れを告げ、千代は鬼羅の後をついて歩き出した。
足場の悪い森。
歩き慣れている鬼羅と、慣れていない千代。
その差は開いていく一方だ。
送ってくれるつもりがあるのだろうかと千代は思う。
「はぁっ、お待ちください、鬼羅さまッ!」
息が切れ、足がもつれる。
声を上げるとようやく鬼羅は止まった。
「鬼羅でいい。さま付けなんて慣れていない」
「え・・・、き、鬼羅・・・ですか?」
「ああ」
ぶっきら棒に言い放つ鬼羅に、千代はにっこりとほほ笑んだ。