鬼姫伝説 Ⅰ
千代は、なにも言えずその場を後にした。
何度も躓きながら城に戻った。
泣き顔の千代を見て、城の従者たちは驚きざわめく。
「なにがあったのです、姫様!」
「なに奴ですか!」
口々に心配そうに声をかけるが、千代は黙ったまま自室に走った。
「千代、入りますよ」
その騒ぎを聞きつけ千代の部屋を訪ねたのは沙代。
返事はなかったが扉を開け中に入った。
千代は蹲り、自分の膝に顔をうずめている。
「どうしたのです。着物の袖が破れ泣きながら帰ってきたと、皆心配していますよ」
「ごめんなさい・・・」
千代は顔をあげ沙代と向き合った。
「誰かに襲われたの?」
「いいえ・・・。これは、違うの」
破った着物の袖部分をさすりながら答える。
その答えに沙代は少しホッとしたように肩を落とした。