鬼姫伝説 Ⅰ


ようよう着物を着がえると千代は鬼羅の背中を見やった。
鬼羅の濃紺の着物の下に着ていた白い着物もすっかり濡れている。



「鬼羅も・・・濡れてる・・・」



自分にかけられていた濃紺の着物を鬼羅の背中から掛ける。
鬼羅が振り返り、二人の視線は絡まった。




「俺はいい。お前、風邪をひいてるんだからかけて寝ていろ」

「でも・・・」

「俺は風邪などひかん」




鬼羅はそう言うと強引に千代を横たえその上に濃紺の着物を再びかけた。
乱暴で、ぶっきら棒な優しさに千代は微笑んだ。
その微笑みを見て鬼羅は、顔をそらし千代から視線を外す。





「勘違いするな。人の家の前で死なれるのが胸糞悪かっただけだ」

「はい。それでもかまいません」




それでもうれしかったのだ。
自分を気にかけ、身体を案じてくれることが。

千代はそっと鬼羅に手を伸ばし着物の袖をそっと掴んだ。


鬼羅は一瞬ビクッと体を震わせたが、なにも言わずただじっとしていた。






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