鬼姫伝説 Ⅰ
「城をあけておれば、このようなことを。わしがどれほど大事に育てて来たか忘れたか」
襖の向こうから聞こえる声。
それは父、影正のものだった。
父が戻ってきている?
なぜ。
一月は戻ってこないと言っていたはずだ。
「父上、なぜ・・・・!」
「早くに切り上げて帰ってきたのだ。お前たちの事が心配でな。そうすれば、なんだ。あれほど言っておいたはずだ。外には出るなと」
「でも!私ももう16です!外の世界を知りたいのです!」
涙を拭い、そう叫ぶ。
「お前は姫だ。外の世界など知らんでもよい。ましてやあの化け物など・・・」
「彼は!化け物ではありません!父上!もう、やめてください!鬼の討伐など!そんなこと、なんの意味もありません!」
「すっかり、あの化け物に丸め込まれたようだな。忘れるな、千代よ。あれは化け物だ。人間を虫けらくらいにしか思っていない恐ろしい化け物だ」
言い聞かせるように。
“化け物”だと。
信じてやまないその声は。
千代を絶望に落としていくには簡単だった。
「しばらく、反省していなさい。お前をたぶらかした母にもきつく言っておく」
「母上は!母上には何もしないで!母上は悪くないのです!」
遠ざかっていく足音。
声も、もう届かない。