鬼姫伝説 Ⅰ
「それは、できない」
鬼羅の口からこぼれた言葉。
それは、千代の希望を消し去った。
「どうして・・・」
「俺と一緒に来るということは、すべてを捨てるという事だ」
「わかっています!」
「この、恵まれた生活も。この場所も。姫という位もすべて、捨てるという事だ」
「それでも!」
それでも側にいたいのだと。
ここはもう、嫌なのだと。
でも、きっと鬼羅はそれを受け入れてくれない。
千代は、それがわかってしまった。
俯き、思いを必死に抑える。
「必ず、また会いに来る。だから、無茶をするな」
「・・・必ず?」
「ああ。必ずだ」
その言葉に、再び顔をあげ鬼羅を見た。
視線が絡まり、鬼羅は頷いて見せた。
「千代。お前に出会えてよかった」
「鬼羅・・・」
「お前みたいな人間もいるのだと知れてよかった」
憎むだけではない未来をくれた。
それだけで、十分なのだと。