鬼姫伝説 Ⅰ
逃げよう。
そう思うのに揺らぎはなかった。
今すぐにここから逃げてしまおう。
姫という位も、この生活もすべて捨ててしまおう。
知ってしまったから。
外の世界を。
護りたい場所ができたから。
このままでは、彼らの住処が彼らの命が脅かされてしまう。
自分がいなければ。
もしこの縁談が破談になって、時光の機嫌を損ねることができれば。
もしかしたら・・・。
そんな淡い期待を抱きながら。
千代はこそこそと身支度を整えた。