鬼姫伝説 Ⅰ
森の奥へ奥へと進んでいく。
真っ暗な森は恐ろしい。
右も左もわからず目を凝らしながら必死で進む先を探す。
火を持ってくるべきであったと後悔した。
しかしそんな余裕などなかった。
ないものは仕方がないと、暗闇に目が慣れるのを待つ。
それまで何度も木にぶつかりながら、躓き転びながらも森の奥へと進んでいく。
ただ、鬼羅を思って。
ただ、鬼羅に会いたい一心で。
「きゃっ」
大きな木の幹に足を躓かせ派手に転びそうになる。
地面に叩きつけられることを覚悟し目をつぶったが、その途中でなにか優しい温もりが千代を受け止めた。
千代を受け止めた温もりに、身を任せていた千代がそっとその温もりに触れる。
それは、人の身体だった。
「こんなところで、なにをしている」
そして聞こえてきた声に、ホッと胸をなでおろし、同時に会いたかった人に出会えて幸福に涙がこみ上げてきそうになった。
「鬼羅っ!」
暗闇でなければはっきりとその姿を見ることができるというのに。