鬼姫伝説 Ⅰ
「・・・とりあえず、小屋に行こう」
まだここは、人里に近い。
もし騒ぎが聞こえてはと鬼羅は千代に声をかけた。
その声に小さく頷いた千代の身体をヒョイッと抱き上げ鬼羅は駆け出した。
「きゃっ」
「しっかりつかまっていろ」
風を斬って走る。
木々の障害物などまるでないもののように華麗によけて。
千代は鬼羅の首に両手を巻きつけ落ちてしまわないように必死に抱きついていた。
小屋の中は真っ暗で、千代には鬼羅の姿も表情もうかがい知ることができない。
それがものすごく不安にさせ、心細くさせた。
「暗い・・・」
「俺たちは、暗くても困らないからな」
それでもこうして声が聞けるだけで、少し安心するのだ。
逃げてこれたのだと。
鬼羅のもとにいるのだと。