鬼姫伝説 Ⅰ



行くなと言われれば、行きたくなる。
それが人間というものだと千代は思う。


今まで行きたくても我慢してきたのだ。
せっかく外に出れたこの機会に行っておかないともうこの先出られないかもしれないのだ。



母上がこれから先も外出を許してくれる保証はない。
今回は父上が一月も城をあけるということがあったからの事で、もしかしたらこの先そういうことがないかもしれない。




そうなれば、この冒険もこれきりになってしまう。





「歩きづらいわ」




ならば、行くしかない。
その森は整備もなにもされておらず、生い茂るものは生い茂り枯れ果てるものは枯れ果てた言わば無法地帯。
足場の悪いその森の中は、室内しか歩きなれていない千代にはかなり大変なものだった。

息が切れる。
喉が渇いた。



そんなわがままな願いがつい口からポロリとこぼれてしまいそうになる。
でも今は、そんな願いを口にする前に察するように差し出してくれる杏はいない。

私は冒険の最中なのだ。
自分をそう奮い立たせながらまだ見ぬ世界に心を躍らせていた。




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