鬼姫伝説 Ⅰ
「でも、洗いたかったのでちょうどよかったかもしれません」
「そうか」
そう言って笑うと、千代は開き直って水をかき集めた。
そんな千代を横目で見ながら立ち上がった鬼羅は川から上がる。
「少し、待っていろ」
鬼羅はそう告げると森の奥へと消えて行った。
残された千代は少し不安に思いながら、その帰りを待つ。
うつぶせの状態になり手を地面に付きながら進んでいく。
どれくらいの時間がたっただろう。
いい加減川から上がった千代は、岩に腰かけ鬼羅を待つ。
べっとりと肌に張り付く着物が気持ち悪い。
「千代」
呼ばれた声に振り返れば、鬼羅の姿。
その服は相変わらず濡れたままで、手には鮮やかな薄桃色の着物があった。